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札幌高等裁判所 昭和58年(ラ)48号 決定 1985年11月07日

抗告人 株式会社一印旭川魚卸売市場

上記代表者代表取締役 大廣元一

上記代理人弁護士 大塚重親

高木常光

相手方 第一水産株式会社

上記代表者代表取締役 田口篤一郎

上記代理人弁護士 平山正剛

卜部忠史

主文

1  本件執行抗告を棄却する。

2  抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

1  本件執行抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

2  本件記録によれば、抗告の理由1、2記載の事実が認められる。

3  当裁判所は、民事執行法(以下「法」という。)一五九条六項の規定に基づき、本件執行抗告についての裁判を留保したものである。

ところで、法一五九条六項が転付命令が発せられた後に強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判(法三九条一項七号。以下「執行停止決定」という。)の正本を提出したことを理由として執行抗告がされたときは、抗告裁判所は、他の理由により転付命令を取り消す場合を除き、裁判を留保すべきものとしているのは、元来、執行停止決定の正本が提出されたときは、執行手続はその当時の状態で進行を止めることとなるのであるが、転付命令の手続においては、換価は、もつぱら転付命令という裁判によつて行われるため、これに対して不服申立てをしない限り裁判が確定してしまうところから、転付命令の発令後に執行停止決定の正本を提出したことを転付命令に対する執行抗告の理由として認め、その確定を阻止する途を開くとともに、執行抗告の提起の段階で転付命令を違法として取り消すと現状で一時執行を停止するという執行停止決定の本来の趣旨を超えて債権者に不利益を与える(法一五九条三項参照)こととなるので、執行停止決定の効力が存続している限り執行抗告についての裁判を留保すべきものとし執行停止決定が終局したときに、その結果に従い、裁判をすべきこととする趣旨に出たものである。

したがつて、執行停止決定に係る本案訴訟等(以下「本案訴訟等」という。)において、債務者が敗訴し、執行停止決定の効力が失われた場合には、法一五九条六項に基づく裁判の留保は、停止決定の失効によりその根拠を欠くこととなるから、抗告裁判所は、執行抗告について裁判をすべきものであり、かつ、執行停止決定が執行続行で終局し、その効力が失われた以上、執行抗告は、結局、理由がないことに帰するから、失当として棄却を免れないものというべきである(もつとも、本案訴訟等の判決の言渡等によりいつたん、執行停止決定の効力が失われた場合においても、同判決に対する上訴の提起等に伴い、更に執行停止決定があつたときは、同項に基づく裁判の留保の趣旨に照らし、抗告人は、すでに執行抗告が棄却された場合を除き、その正本を提出することにより、更に同項に基づく裁判の留保を得ることができるものと解すべきである。)。

これを本件についてみるに本件記録によれば、旭川地方裁判所は、昭和六〇年九月一七日、抗告人の前記異議に基づく約束手形金請求事件(同裁判所昭和五八年(ワ)第三六二号)について前記手形判決を認可する旨の判決をし、前記強制執行停止決定は、失効したことが明らかである。

4  よつて、本件執行抗告は結局理由がないことになるからこれを棄却する

(裁判長裁判官 奈良次郎 裁判官 松原直幹 柳田幸三)

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